彩色師は木地や金箔の上に絵を描く職人です。
襖絵や壁面・天井画だけでなく柱や長押、彫刻など、平面から立体までさまざまなところに彩色を施します。
彩色師(さいしきし)
Saishiki-shi
The work of Saishiki-shi.
彩色師の仕事
極楽浄土を描く
彩色の種類は下地の種類
彩色には3つの種類があります。一つ目は代表的な極彩色。もっとも派手な見た目をしています。寺院の欄間や机などの彫刻には色彩豊かな極彩色が施されています。極彩色は、下地に胡粉(ごふん)と言われるカキの殻を砕いて作った真っ白な下地が用いられることで、各色合いが鮮明に発色していることが特徴です。
次が金彩色。金箔の上に淡い彩色を施す技法で、主に彫刻に施されます。少し淡い滲んだような色合いが金の中に溶け込んでいくような表現になり、金という金属質の上に絵具を重ねることで素地に沁み込みすぎず独特な色合いが生み出されます。
最後が木地彩色、こちらは読んで字のごとく木地に対してそのまま彩色を施していく技法です。極彩色ほど色目がはっきりとは表現されませんが木地の風合いを生かしつつ落ち着いたトーンで描かれていきます。
驚くほど色合いを明確に組み合わせた極彩色、金箔の輝きの中に色を生み出す金彩色、木地の上に素地を生かして施される木地彩色、彩色は極楽浄土を現世に描く表現にも使われました。
生きている素材を生かす
日本でも国宝や重要文化財など時代を経た調度品や建物があり、文化財指定されていないものの中にも銘品や逸品は数多く存在し、数十年に1度修復が行われます。彩色の技法は修復作業の中でもとても重要な役割を担っています。
それはもっとも表面に施される加飾であり、顔料という素地自体を染色するのではなく、表面に描かれる絵具を用いた仕事であるため最も傷みやすい部分でもあるからです。
彩色が時代を超えて修復できる理由は顔料と素地を繋ぐ接着剤にあります。顔料の群青や緑青などは藍銅鉱や孔雀石など鉱石を砕いたもの、珊瑚や水晶、植物由来のものもあります。それらの微細な粉を膠を接着剤として塗布していきます。この膠は一旦乾燥した後も水分によって溶かすことができます。合成塗料にはない可逆性こそが日本を代表する美術品や建造物が今も美しい姿を保ち、世界から注目される歴史と伝統の日本の姿を描き出しているのです。
顔料も接着に用いられる膠も自然由来のものを多く用い、生きている素材を生かすことも彩色師の仕事と言えます。
時代を超える表現技法
彩色による修復の中でも興味深い技術が古色や時代色と呼ばれる技法です。これはエイジング加工・ダメージ加工に似ています。
修復には創建当時の新しい姿に戻すケースと現状の風合いを残して修復するケースがあります。
そのような修復の違いには合理的な意味があります。例えば京都にある有名な三十三間堂には1000体以上の仏像が並べられています。先頃終了した仏像の修理作業中は、いつ訪れても数体は修復中の札を見ることができました。
しかし、修復後戻ってきた仏像のどこが修復されたかを見分けることができる人はいないと思います。これは建物での部分的な修復を行った場合や原状を維持する目的でなされた修復でも同じことが言えます。
そのため、彩色師たちは欠損している彫刻部分などを彫師が継ぎ足したりした新品の状態の素材にも、時代を経て自然が生み出してきた風合いを再現していきます。時として漆や煤、灰なども用いてその空間に納まるべく生み出された表現技法であります。