截金(きりかね)の技法は主に仏像や仏像の衣服などを装飾する技法です。
截金師は細い金箔の糸を用いて様々な模様を描き出していきます。
截金師(きりかねし)
Kirikane-shi
The work of Kirikane-shi.
截金師の仕事
金の糸が描き出す繊細美
際立つ金線図の世界
白木の仏像などに細い細い金線で彫刻のエッジラインや衣服などに生地の模様や織り目が描かれているモノをみたことがあるでしょうか?それらの中に截金の技法を使って描かれているモノがあります。細い細い金線で描かれている繊細な模様は独特の風合いと世界観を描き出します。
金線で描かれる模様にも彩色の技術を使ってつくられるものもありますが、截金はそれとは少し違います。彩色では金粉を溶いた絵具を細い筆で描いていくのに対し、截金で使用するのは細い金箔を切り出した糸を用います。絵具と糸…細い線として描かれる模様は一目見ただけだと似たように見えますが、よく見るとその違いがはっきりと見えてきます。彩色が細い筆で金線を描く場合は、絵具は液状なので線のエッジが少し丸みを帯びて柔らかな印象になります。
しかし、截金で使用するのは金箔を細くカットした糸なので、その金糸の断面は正方形に近い形状をしています。その為、描き出される細い線画は、線の一本一本がくっきりと浮き出し、よりシャープな印象を与えます。截金の技法で装飾されたものを見る機会がある時には是非、その線の美しさを見てください。
下絵を置かない描写
截金の工程を見ていてとても驚くことは、職人たちが下絵を描かないことです。普通、彩色師や彫金師にしても図柄を描く職人や文様を描くことがある仕事では下絵を描きます。特に幾何学模様の連続性のある文様などは少しのズレや歪みが完成品になると全体のバランスを崩してしまうので、美しく見えなくなってしまうこともあり、正確さを強く求められます。
しかし、截金の糸は下絵の線が見えてしまうくらいにとても細いので截金師は下絵を描かずに直接アプローチしていきます。糸とは言え金箔を薄くしたものですので、曲線などは筆で描くよりもずっと難しく、均一な大きさの円を描くだけでもとても神経を使います。
下絵も何もない素材に対して、ゆっくりと筆で線を描きながらそっと金箔の糸を垂らして描いていく様子は、他の誰にも見えていない完成図が職人の目にはしっかりと見えている、不思議な感覚を覚えます。
細い金線は素材の表面に乗ると同時に輝きだし、そのものが純粋な金であることから光の映り込みや周囲の明るさや色に影響されながら、とても表情豊かな得も言われぬ表情を見せてくれます。
息をのむ静寂
截金では、金箔を細くカットした糸を使用すると説明してきましたが、その糸を作るのにも工程があります。一番初めに金箔を5枚程度かさねて、上から熱することで金箔を圧着させて普通の金箔よりも少し厚い金の紙を作ります。元々の金箔が1万分の1ミリなので、厚いと言ってもとても薄いのですが、それでも金箔よりも少し硬めの印象になります。その金の紙をシカの毛皮を貼った台の上に乗せて、竹で作った竹刀を用いて細く細くカットしていきます。昔からシカの皮の台と竹刀が使われているのは静電気が発生しにくいという理由があります。金箔はほぼ純金ですので、とても通電性が良く静電気が発生するとすぐにくしゃくしゃに縺れてしまいます。
その細い金の糸を素地の上に乗せていくのですが、その際には二本の手の片手に持った細い筆に金糸を垂らした状態で持ち、逆に手で素地に糊を付けた細い筆で線を描きながら、その線の上を沿うように金糸を垂らしていって図柄を描いていきます。
とても細い糸を正確に描き出す線の上に垂らしていくとき、人間の吐息でさえ邪魔になる静寂の時間と張り詰めた空気が静かに空間を埋め尽くします。まさに息をのむ瞬間に描き出されていく美しい線画の世界。一本一本は細い金糸を纏った作品は繊細さの中に凛とした雰囲気を持つ逸品に仕上がります。